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70's/80's Monochrome Age and Years of Ektachrome film

打保-杉原 (高山本線) 1997

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1990年代に高山線通いを再開した頃、打保や杉原に降りると無人化以来の殺風景な待合室に手作りの版画カレンダーが掛けられていた。
版木から大きめの和紙に一枚一枚丁寧に摺られ、表紙と4月から3月の二ヶ月ずつの7枚を割木で挟み込んで紐で括ったそれは、打保を出た下り列車が第三宮川橋梁を渡ると右手の川沿いに見えた宮川村立坂下小学校の児童たちによる作品と知れた。
地域に伝わる民話をテーマにした絵柄にカレンダー部分の曜日に日付までも版木に彫り込まれ、小学生だから版画とすれば稚拙に違いないのだけれども、その素朴と云って良い味わいには惚れ込んでしまい、降りる度にじっくりと眺めていたものだった。
実を言うと、仕舞いにはそれに飽き足らなくなり、一括りの頒布を頼みに学校を訪ねたことがある。残念ながら取置きの払底してそれは叶わなかったのだが、通された校長室では地域の過疎と少子化からの深刻な児童の減少を聞かされた。校長は、版画カレンダーは代々卒業記念に6年生が分担して制作して来たものが、近年では上級生全員が手分けせねばならず、その意味の無くなりつつ有ること、そしてそれさえいつまで続けられるか分からぬとも嘆くのだった。

1956年9月30日に坂上村と坂下村が合併しての宮川村成立当時、村内には坂上、坂下小学校の他、それは種蔵と大無雁にも所在し、洞に坂下小の、ニコイ平に種蔵小の分校が、小谷には大無雁小の冬季間のみの分校も開かれていた。けれど、いずれも開拓地だった分校は離農の相次いで(特にニコイ平は1962年に集団離村)1970年代初めまでに閉校となり、種蔵、大無雁も人口減少から1980年代に失われて、二校体制が永く続いていたのだった。
それは岐阜山中に限らず、この時代に全国至る所の農山村で見られた事象だろう。そこでの疲弊は日本の経済成長と云う農村には恩恵の無い絵空事との引換えに始まったのである。それが資本と結託した時の政権党に支えられた、農民を土地から引き剥がして工業労働力とする国策であったことも忘れてはならない。
宮川村からの人口流失は今尚も続き、打保に通い始めての数年だけでもストーブの煙突に昨年までの煙の上がらぬ何軒かを見ている。古川町など5町村との合併にて飛騨市の発足して以降の2005年から2010年の5年間にも旧宮川村域では55世帯162人を減らした(国勢調査データによる)。

校長室を辞して、中沢上(なかそうれ)集落から裏手の林道を上った。第三宮川橋梁を渡って往くのは1025D<ひだ5号>。
間もなく車窓に坂下小学校を見る。
そこからは翌年3月に新しいカレンダーが届き、添えられた児童代表の手紙にはこう在った。
「私たちのカレンダーが神奈川の人の家に飾られるなんて想像もしませんでした。」
それから3年後、2000年3月23日を以て坂下小学校は廃校となり、打保や杉原地区の子供達は巡回するスクールバスで10キロほど先、村で唯一の坂上小学校へ通う。

[Data] NikonF5+AiNikkor105mm/F1.8S 1/125sec@f2.8 C-PLfilter EktachromeProfessional E100SW [ISO160/0.5EVpush] Edit by PhotoshopLR5 on Mac.

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コメント

Re: タイトルなし

こんばんは、風旅記さん。
いつも、ありがとうございます。

中学校ならまだしも、小学校はそこに在るべきです。
例え、児童の数人であろうとも。
教育に経済論理を持ち込んではならず、
効率化を語ってもなりません。
そう思います。
スクールバスで通う小学生なんて、どうしても不自然です。

  • 2014/12/25(木) 21:35:34 |
  • URL |
  • Wonder+Graphics #-
  • [ 編集 ]

こんにちは。
旅について考えさせられる記事でした。
いつもと違う場所を敢えて訪ね、その土地でどのように過ごすか、何をするかによって、旅の豊かさが変わってきますね。
人とのコミュニケーション、その土地の理解、至る過程、これらを無視するようなスタイルでは、なかなか得られるものはないか表層的になるのでしょう。
素敵なエピソードをお伺いできました。
ただ、その小学校も趨勢のままに廃校になってしまった寂しさは、拝読しただけでも心に残りますが…
今後とも、宜しくお願い致します。
風旅記: http://kazetabiki.blog41.fc2.com/

  • 2014/12/25(木) 14:27:33 |
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  • 風旅記 #O7xVy9HA
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